トリップ
リクが一瞬だけ瞳を大きく開いた。
何を思ったのか、ゆっくりとこちらに向かって近づいてくる。引きつった顔を浮かべながら、のっぽだな、と改めて思う。
最初に見た時は180くらいに見えたが、近くから見ると184から185と覗える。
エリカの前で立ち止まり、見下ろした。
「そんな引きつった顔しなくても、何もしないから安心しろ。」
静かな声がまたも耳に響き、気を許しそうになったが、再び気を引き締める。
いい顔をした男の「何もしない」とはつまり、崩壊寸前の吊橋なのだ。
恋愛小説上の話、イケメンにドSはつきものだ。
「・・・まぁ、殺人なんて見たんだから、相手が信用できないのは分かるが・・・そこでこの対応は意外だな。」
この対応・・・とは、エリカの引きつった冷静さの事を意味しているのだろう。
「ど・・・う・・・も。」
実際は口を開くのがやっとな状態だ。
リク自身、それを見て分かっていたからそう言ったのだ。
そして、先ほどの男の死体を見て言った。
「最近は・・・殺し屋も増えて物騒になってるな。」
「え・・・?」
(殺しとったのは先輩やろ?)
それに殺し屋と言うのは漫画だけの話だろう。エリカは嘘くさそうな顔をする。
「・・・先輩、何モンですか?」
心の内に秘めていた言葉が、ついに口に出てしまった。