トリップ
「な・・・何を・・・」
エリカは無意識だろうが、明らかに涙が見えているリクは思わず動揺する。
「そんなに・・・良かったのか?」
「はぃぃ・・・良かったです・・・!」
「よく泣く子だな、君は」
「えぇ・・・?」
慌てて確認するエリカの姿は、リクにとっては滑稽に思える。それが土岐の姿と重なって見えたのは、彼女が笑ってからだ。
「お話はもう終わったぁ?」
呑気に入ってきた秋乃が言う。何やらバックをぶら下げている。秋乃はリクn耳に口を近づけ、静かに喋る。
「リク、はいこれ」
手渡したのは注射。リクは中の薬を見て思い出す。美喜に使ったあの薬と同じだ。そしていつもの調子の声に戻る。
「まさか・・・」
「うん。ま、頑張ってね。あたしじゃ絶対に大騒動にしちゃうから。リクはこの方が得意だし、出来る?」
「ああ。これくらいの傷なら大丈夫だ。熱もひいたようだし」
そう言うと、秋乃はいったんその場から引くようにして外へ出る。
「あの・・・秋乃さんと何を話して・・・」
「静かに」
かつかつと足音がこちらに向かってくるのが分かった。リクは静かに立ち上がってエリカに言う。
「いったん、このベットで寝ててくれ」
「え?」
「悪いが、囮になってもらう」