トリップ
それだけ言うと、リクはゆっくりともう1つのドアの方に向かう。足音の人物が入ってくると同時に、リクはもう1つのドアから抜けてその男の首に注射を撃つ。
拳銃の引き金に触れさせるまもなく、男は倒れた。あの時の、サラリーマン風の男だ。
「この人・・・誰?」
「知らなくていい。運ぶから、待っててくれ」
この男も記憶を失うだろう。それなら殺す必要もなかった。ナイフでも良かったのに、と秋乃に言いたくなる。
適当に空き室のベットに置いておくと、さっさと部屋に戻る。
「はぁー」
リクは大きく息を吐き出す。ベットに座り込むと「もういいぞ」とエリカに言って起こさせる。
「あの・・・」
「あの男のことは聞かなくていい」
「怪我、大丈夫ですか?」
「今更か。大丈夫、酷くはない」
「えぐれてたんですけど・・・」
「大丈夫・・・」
そう言ってから、少し黙って「じゃない」と呟くように言う。
「やっぱり。痛くないわけない」
「痛くなかったら凄いな」
リクはわざとらしく顔をしかめる。「まぁ、俺はこれよりももっと痛い思いをしてる」そう言って本気で苦々しい顔つきになった。
少しの間、下を向いていたかと思えば、患者服に手をかけ「本当は見せたくないんだが」と言ってから、襟足を右に引っ張る。
衣服がはだけ、胴体には袖なしのシャツが見え、右肩は肌が露わになっていた。
「これが・・・俺が一番痛いと思った傷だ」
右肩に、刻印のように残った弾痕が見える。