トリップ
事務所を出ると、私は携帯の時計を見る。今は正午、テロまであと2時間だ。
病院近くのコンビニエンスストアで軽食を買う。イチョウ並木の中でハンバーガーを齧りながら、悔しそうに病院を見つめた。
今、あの病院で人が1人生まれたかもしれない。
射撃手(スナイパー)がこんな時ばかり命について真剣に考えるのは矛盾している。そう思うと、どこかに「大人は殺せるのに子供は殺せないのね」と言ってくる自分がいるような気がした。「矛盾している私は、本当に救いようがないわね。あの狂った殺人鬼以上に」
何度も響いてくるので、自分の手の甲を抓る。
うるさいわよ。
イチョウの葉が揺れる中、私はその場に立ちつくす。
こんな時、あの子なら―キャプテンならどうしたのかな?
そう考える。そして「決まってるじゃない」と自問自答する。私の推測では、1つしかない。
『危険気にせず、突っ込む』
彼女がこの状況に置かれていたら、もし、その時いつも自分は小心者だと言っている彼女に勇気が出てきたら、きっと爆発させる前に相手を捕まえるだろう。
そうしない方が、彼女らしくない。
小心者特有の恐怖心があっても、どこか、それを許せない自分がいて、それが爆発すると、小心者には見えない行動を起こす。
キャプテンは、きっとそんなことを繰り返して、結局助けているのだろう。
私も出来るのかな?
そう思った瞬間「いや、出来ないね」とまた頭に響く。
「私は、あの子とは違うじゃない」
そう呟く。