トリップ
私はあの子とは違う。
残酷で、戦うことばかりを身に付けて、平気で人を殺す鬼子(きし)。
そんな自分が、危険を顧みず、この病院に突っ込むことなど、出来るのだろうか。
できない。
でもね。私は首を横に振る。「できない」と「やらない」は違う。
奪っていい命などないと述べた作家がいたが、それは嘘なんじゃないかと思う。奪ってはいけない命があるからこそ、その命を奪う、奪わなければならない命がある。だから、私達ができたんじゃないのかな、と思った。
いつのまに、邪魔な人間を消すだけの道具になったんだろうか。
「やるの」
口に出し、私はゆっくりと歩き出した。光陰矢のごとし、私が病院に入る頃にはもう時計は1時30分をさしていた。
―
病院の中に入ると、マスクをした者が大勢いた。その中で私は、標的の男を探した。360度見回した後、私は目を見開いた。黄色い帽子をかぶり、太り気味で、色白で、上着の胸の部分がずり落ちそうになっている。
拳銃でも入れているのだろう。私がそう判断した直後、男は思った通り、胸元から拳銃を取り出した。
「動くな」
喚き散らすように男は言う。周りはギョッとして男を見た。
「この病院の柱に爆弾を設置してやったぞ。1人でも逃げたら、この病院、壊すからな」
最初から壊そうとしているくせに、紛らわしい事言うんじゃないわよ。
男はそのまま階段を上り、3階まで上がる。私はまだこの病院に爆弾が設置されていない、あれは脅しだと判断し、後を追う。男はそこで止まった。周りを見てみると、透明なカプセルが並んでいる。赤子が入っているのだと分かると、私はじっと物陰に隠れ、男の様子をうかがう。
男は大き目のボタンのような物を取り出し、5つほどそれぞれの柱に付けていく。
あれが爆弾ね。私は懐から拳銃を取り出した。