トリップ
あ、そういえば。私はあることを思い出す。
あの人質とされた患者たちは、まだあの男が生きていると思い込んでいる。しかし、そこで私が動くと、またかなり面倒なことになる。
私が先頭になって外に導けば、警察たちの目もこちらに注がれかねない。事情聴取や、あの男の仲間ではないかと疑われ、この傷の理由も説明させられたら命取りだ。
かといって、このままでは患者達もいつまでたっても出られない。入り口の方を見てみると、かなりの数の警察が群がっていた。
「どうしよう」
呟くと、細い線となって流れる血を拭き取った。
「おった!」
いきなり聞こえてきた大声に、私は飛び上がった。何が起こったの?と声のした方向を見る。
走ってきたキャプテンの声だということに気付き、私はホッとした。
「よかった、大丈夫やった・・・」
「エ?」
「テレビに映っとった監視カメラの映像に、犯人が来る前にシュンリちゃんが入ってくのが見えたで・・・びっくりして」
「デ、走ッテ来タト」
「うん」
ゼェゼェと荒い息を吐きながらキャプテンは言う。何も持たずに、一体何を目的に走ってきたのだろう、と質問したくなった。