トリップ

あ、そういえば。私はあることを思い出す。

あの人質とされた患者たちは、まだあの男が生きていると思い込んでいる。しかし、そこで私が動くと、またかなり面倒なことになる。

私が先頭になって外に導けば、警察たちの目もこちらに注がれかねない。事情聴取や、あの男の仲間ではないかと疑われ、この傷の理由も説明させられたら命取りだ。

かといって、このままでは患者達もいつまでたっても出られない。入り口の方を見てみると、かなりの数の警察が群がっていた。

「どうしよう」

呟くと、細い線となって流れる血を拭き取った。

「おった!」

いきなり聞こえてきた大声に、私は飛び上がった。何が起こったの?と声のした方向を見る。
走ってきたキャプテンの声だということに気付き、私はホッとした。

「よかった、大丈夫やった・・・」
「エ?」
「テレビに映っとった監視カメラの映像に、犯人が来る前にシュンリちゃんが入ってくのが見えたで・・・びっくりして」
「デ、走ッテ来タト」
「うん」

ゼェゼェと荒い息を吐きながらキャプテンは言う。何も持たずに、一体何を目的に走ってきたのだろう、と質問したくなった。





< 360 / 418 >

この作品をシェア

pagetop