トリップ
「なんか知らんけど、これは危ないぞって思ってさ・・・。うち、助けようと思ったんかなぁ、本能的に」
ははは、とこの時期に汗をかきながら、キャプテンは言う。本能的に助けようと思ってと言われても、彼女に手伝ってもらうまでもなくなったのだが。
ヒトってそういうことあるんだなぁ、と思う。
いや、これは彼女だけかもしれない。
「怪我とか、しとらん?」
「・・・シタケド、大丈夫」
「え?したの?どこどこ・・・」
心配したような顔で寄ってくる。
―この顔に、私は安心してるんだなぁ、きっと。
ふふっと笑うと、私はキャプテンの肩を掴んで「イイワ」と言う。「デモ、チョット助ケテホシイノ」
「何?」
「アノ中ニイル人達ノ前ニ立ッテ、外ニ出シテ。ウウン、キャプテンガ誰ヨリモ先ニ、表ノ出入リ口カラ出テクレテモイイノ」
私は患者達が出られない理由だけを説明する。
キャプテンはジッと私を見た後、何も言わず「よし」と言い、裏口のドアを開けた。
「シュンリちゃんは?」
キャプテンは振り返って言ったが、私は首を横に振った。
「イイノ。私、コレデ十分ダカラ」
これ以上喋れないと言う事が分かったのか、これでいいという言葉を単純に受け止めただけなのか、キャプテンは「分かった!」とだけ言って、裏口から入って行った。
「私も、帰ろうっと」
落ちてきたイチョウの葉が、力なく風に拭かれた。