トリップ
小学3年生の頃を思い出すような感覚に似ている。
「まさか・・・飛ばされた話の部分の記憶?」
そうなのか?と自分に問いかけてみるが、何も浮かんでこない。記憶喪失した人間が、ふと記憶を蘇らせるシーンのようだった。
「なんでこんな中途半端な場面で記憶が出てくるんやて」
変なの、と呟き忘れようとまたキーボードを打ち続けたが、それでも頭を離れないものはあった。
紅涙学園、オーディションというイベントがある現実には絶対にないはずの学校。たぶん、それはシナリオだ。
その場においての主人公(誰だ?)が動きやすいように自分が設定した架空の制度だろう。あの学校が一番第二主人公に関わっている所なのか?
「エリカちゃん・・・。電話に出ぇへんのは・・・」
なんらかのハプニングに巻き込まれたのだろうか、無性に毛が粟立った。よくよく考えると、自分のつくった物語は、少しハプニングの内容が危険すぎる。どのレベルの怪我をするのか分かったものではない。
もうすぐ秋の下旬にるということだけではなく、不安で鳥肌が立った。すると、突然キャプテンの耳に自分をを呼ぶ声が聞こえた。
「キャプテンー?」
シンゴの声だ。兄の呼ぶ声にキャプテンは「はーい」と応じる。
「何や、起きとったんか」
「ああ、うん」
「はよ寝やーて。小説書いとらんと(書いてないで、と言う意味)」
「分かった分かった」
パソコンの電源を消し、まだ薄めの毛布を上から被る。
ふと、置きっぱなしになっていたお守りが目に入る。不意に、エリカに渡した交通安全のお守りが思い浮かぶ。
今は古くなっているか、誰かに受け継がれているだろうお守りを思い浮かべる。
『これがうちと一緒にエリカちゃんを守るで。もし、傷ついた人がおったら、次はその人にこれを受け継いだって』