トリップ
耳を疑った。呼吸のリズムが乱れて、言葉が詰まる。
心臓がトクン、トクン、と柔らかそうな音を放つ。もう随分と長く言われなかった言葉だったのか、動揺している、とツトムは自分で気付く。
疑う事など忘れて、ツトムはこんな言葉を口に出した。
「・・・いいの?」
「いいって。むしろ、おってほしいし」
「うち・・・役に立つ?邪魔にならん?」
「ならんよ」
「こんな・・・悪い所しかない?クラスのゴミでもいいって?」
「ゴミやないって。気遣わんでも」
「うちにいい点なんて、ないのに?」
「あるある」
エリカという転校生は、落ちていた本を手に取って言う。
「キリちゃんの小説、見たいな」
自然と笑みが零れ落ちそうになる。堪えていたものすべてが出てきそうになった。
「ほらほら。笑っとるほうが、こっちも楽しくなるし。暗いキャラは似合わんよ」
「・・・笑っとったほうが、いい?」
「うん!」
それ以来からだ。エリカとツトムの付き合いが出来たのは。
4年生になり、クラス内で起きていたいじめも自然消滅、いや、もともとのツトムについてのことが日に日に忘れ去られて行ったので、もう苦しい事も無くなり、中学生になって首謀者の男子が神奈川へ帰った頃には、男女問わず友達が出来ていた。
ツトムの印象もだいぶん変わり、だらしなく垂れていた髪の毛はポニーテールにし、堂々と笑い声を上げて明るい印象を持っていた。