トリップ
俺が「裏」に関わるようになったのはこの頃からだろうか、町で歩いている最中に男に声をかけられた時だ。
「お前、絶対的の能力者だろ」
何のことだ、と聞いてみると、相手はこう言う。
「人よりはるかに優れた能力の事だ」
それしか言わなかった。「裏」では有名な名前で、情報機関を使ったところ、それを持っているのが俺だったらしい。
「お前、親はいるか?」
「いねぇよ。ついさっき出てったんだから、俺が」
「そうか」
男は、まるで目の前に宝を見つけたような貪欲な目で言った。
「じゃあ付いて来いよ。いい稼ぎ手、見つけてやる」
小太りの男を最初は信用して付いていった。男は「この写真に写ってる男」と言った。最近一家惨殺をしたが、証拠不十分で釈放となった男だ。
その男の棲家の前に立ち、男は俺に言う。
「今からすることは1つ、お前はこれを持ってやれ」
男は俺にあるものを渡す。俺はそのとき、渡された物を凝視した。
「何だよこれっ!」
渡されたナイフを落としそうになる。これで大体、何をしろと言われているのかが理解できた。
「中にいる殺人犯を、殺すんだよ」
「殺したら、そいつと同じじゃねぇかよ」
俺は喚くように言う。この男は尋常じゃない、俺はとんでもなく遅くそれに気付いた。
「遅いんだよ、気づくのが」
いっこうに泣き止まない子供を見るようなイラついた目で、男は俺を見た。
「嫌なら1回でいい。一家惨殺するのと殺人鬼1人殺すのと、どっちが酷いことか想像付くだろうが。死刑執行人だって、殺人犯を殺すんだ。同じことだと思えばいい」