トリップ
男はいかにも本気らしい声で言う。当時、俺はそれをあっさり信じ込んでしまった。男の首をナイフでかすめると、俺は罪悪感と恐怖で震え、怖気づいてその場に座り込む。
「やるじゃんかよ、お前」
飄々として言う男に、俺は震えながら恐怖心の混ざった声で言う。
「こ・・・これ、で、終わりなんだ、よな・・・?」
そうであってくれ、と思ったが、男はその口から「はぁ?」と言う軽蔑的な言葉を口にする。
「あんなの口からの出まかせに決まってんだろうが。お前の力は貴重なんだ、そう簡単に手放すかよ」
「え・・・?」
このときを振り返ると、俺は本当に単純で馬鹿だったのだと思う。
「1回きりって・・・言ったじゃねぇかよ・・・」
「そうでもしないと、お前やらなさそうだったからな。なんだ?喧嘩は出来るくせに人は殺せねぇのかよ」
俺はごくりと唾を飲む。
「お前はもう人殺しだ」
青ざめた俺の顔を見て、男は蝦蟇蛙のような顔で笑う。
「もう引き返せねぇぞ」
皮肉のつもりなのか、男は俺の手をぎゅっと握り、握手する。