トリップ
最初のうちはうまくいっていたが、その男と出会って2週間後、ある詐欺師の殺しを請け負った俺はその家に潜り込み、標的を殺すことを終えた俺だが、そこにはあるものが飛び込んできた。
その詐欺師の妻は離婚したと聞いていたが、子供がいるとは思わなかった。ほんの1歳半と覗える、小さな子供だ。
男に電話で相談すると、男は「そんなもの、殺せばいいだろ」とだけ吐き捨てるように言い、電話を切られた。
最初は殺すと思っていたが、いざ目を見てみると手が止まる。
まだまともな感情が生まれていない年の子供。俺を見てニコッと笑い、四つん這いで寄ってくる姿を見て、俺はなぜか、殺さずに子供を適当に電気のついている小学校の明かりの下に置いて行き、気付いてくれるように職員室のドアを強く叩いてから去っていった。
「ふざけんなよてめぇ」
帰って正直に本当のことを言うと、男は俺に向かって怒鳴り散らす。
「全員殺せって言われただろうが、同情してんじゃねぇぞ」
「1歳くらいのガキ、殺しなんて知ってるわけねぇよ。いいだろうが」
俺はそう言ったが、男は溜め息をついて呟くように言う。
「お前みたいに情が残ってる奴が、この世界じゃ早く死ぬんだ。お前知ってるか?」
「何をだよ」
「最近名を轟かせてる若い守り屋だよ。教えただろ。アイツみたいに、化け物並みの仕事が出来ねぇと、すぐ死ぬんだよ。それも、そいつはお前と同い年、若い殺し屋にも容赦はしない」
「若い奴と1歳は違うだろ。バカかお前」
そう言ってやると、男はまた溜め息をついてから「もういい、向こう行ってろ」とだけ言った。