トリップ
右下の顎から鼻頭にかけて血が流れ、コンクリートに滴り落ちた。
ナイフで切られたと悟ったのは、傷が痛み出してからだった。
軽い傷だったが、血は出ている。
これは学校に行った時事情聴取されるだろうな、と、この状況でもそんな事を優先して考えてしまった。
向こう見ずな事するんじゃなかった。今更になって、キャプテンは後悔する。
そして、その後から不意に恐怖心が湧き上がってきた。最初から怖がって逃げていればよかった、とキャプテンは思う。
ナイフで切られるなど予想外だったため、余計に恐怖が増倍する。
もう思い切って降伏してしまおうか。
現代人らしいことを考え出したその時、何かが辺りの光に照らされ、左にいた男の左頚動脈から血が吹き出た。
「また血祭り・・・」
あっけにとられてそう呟く。
幸い、キャプテンにはかからなかったらしく、服についているのは自分の血液だけだ。
相当なショックにはなると思うが。
「ったく、勝手に離れんじゃねぇよ。」
ケイラの声。
やっと来た!と、キャプテンは目を開いた。ただし、助かったと思ったのはその一瞬だけである。
横にいたもう一人の男は、仲間が殺されても動揺を見せず、ケイラの方を向いた。
「守り屋か?」
「ちげぇよ。殺し屋だ。」
(守り屋?)
2人の会話に出てきた「守り屋」と言う用語に、キャプテンは首をかしげた。