貴女に捧げる夜
『今日…ドキドキして眠れないかも』
『じゃ、眠くなるまで電話でもする?』
『電話してちゃ、余計眠れません(笑)』



笑いながら歩いてると、
駅前で彼女が立ち止まった。



『どうしたの?』
『…も一回…ダメですか?』



言わんとすることはわかったんだけと、
この人ゴミの中、僕にはそれをする勇気
はない。



“何を?”と言うと、
“やっぱ何でもないです!”と慌てたように笑う。



少し可哀想なことしたかな、と思っていると



『私、少し興味はあるんです…話にしか知らないけど…』



たどたどしく話す彼女。
さすがにこれは聞き返すのを躊躇われる…
というか、まだ早い。と思いつつも、
心のどこかでは待っていたんじゃないかと思う。



『うん…』



その先の言葉が見つからない。
そんなに器用ではないし、
こんな状態に慣れてるわけでもない。



『だからってすぐとか、
あの、そんなのは思っていなくて…』



早口で喋り始め、



『もう電車くるんで帰りますっ』



と、改札へと走って行く。



何となく、このまま帰してはいけないような気がして、
人にぶつかりながら追い掛けた。




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