貴女に捧げる夜
改札の手前で彼女の手を捕まえる。



まさか追い掛けられるなんて思わなかったようで、
手を掴んだ瞬間、



『きゃあっ』



なんて短く叫ばれて、周りから注目された。



『松永さん…』



表情が驚きから、安心に変わる。



『どうしたんですか?』



引き止めたはいいけど、
何て言おうかなんて考えていない。



『ありがとう』



なんで“ありがとう”なのかはわからないけど、
何となく素直な気持ちを言葉にしたらこうなった。



『それを言うために走ってきたんですか?』



笑顔になる彼女。



『…そうみたい。メールでも電話でもよかったのにね』


そうだ。
別に追い掛けてまで言うことじゃない。



でも…
嬉しそうに笑う彼女を見ると…
“あ、追い掛けてきてよかったかも”って思って
僕まで笑顔になったんだ。



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