貴女に捧げる夜
『あ…』



暫くの沈黙のあと、
言葉を発しようとした僕から
彼女は気まずそうに目を逸らした。



何も言ってはいけない。
彼女の横顔を見て思った僕は


その場から早く立ち去りたくて
ペダルに足をかけた。



『待ってよ!』



彼女の声が聞こえる。



『どうして何も言わないの!?』



どうして?
どうして何も言わないんだろう?



ゆっくり振り返ると、
今にも泣きだしそうな表情の彼女が、肩を震わせている。




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