気付いてよ
あの日、マンションの入り口で奏たちに遇った日から、もう1ヶ月が経とうとしていた。

秋の風なんてとっくに冬のそれに変わっていて、涼しかった空気もいつの間にか冷たくなった。

それなのに、俺の気持ちは少しも変わらない。

自覚したこの気持ちはどうしようもなかった。

恋だなんて到底呼べない。

そんな綺麗なものじゃない。

この1ヶ月俺は、奏を避けた。

向こうも俺のことを避けていたから、俺がすることなんてほとんどなかったのが現実だけれど。

偶然見掛けるのも避けようとして意識してみたら、自分はとっくの昔から奏しか見えていなかったんだと気付かされて、心の中で笑った。

いつも決まって、まるで癖の様に窓の外を見るときには必ず奏のクラスが体育をしていたり、購買部に行くときは奏の好きな菓子パンを買おうとしてみたり。

自分の鈍さと愚かさには、むしろ拍手をあげたいくらいだった。

もちろん、皮肉の意味を込めて。

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