気付いてよ
だって、奏は俺が今どんな気持ちかなんて絶対に分からない。
絶対に分からなくなるようにしたのは他でもない俺だから、性質が悪い。
「先生より、奏のが教えんの上手いよ。」
これが俺の精一杯。
これ以上調子に乗ると多分、やばい。
「褒めても何にも出ないんだからね?」
言いながら少し照れて笑う奏は、今までだって何度も見たことがあるはずなのに、全然違って見えた。
あの日、奏の泣き顔を見た時みたいに、まるで別人みたいなその顔に、俺は戸惑った。
俺の知らない奏なんていないと思ってたのに。
「お世辞じゃねーよ。さてと、俺出してくるわ。ホントありがとな。」
「うん。いってらっしゃーい。」
奏に見送られて教室を出る。
職員室までの足取りは、居残りの課題を出すテンションとは思えないほど軽かった。