制言師は語らない
「カーン、何してるの。遠慮しないでやりなさい」
 剣士というのは因果な体質で、剣を構えると、ほとんど自動機械のように身体が反応してしまう。

 居合の速さはお爺ちゃんから散々聞かされてきた。なにしろ、雷神流も速さの剣なのだ、自然と敵対心があるのだろう。

 フォウがぼくに有利だと言ってたけど、それは違う。中段に構えているぼくは、剣を振り上げて踏み込んで斬りに行くと言う三つの動作が必要なのに対し、居合は踏み込みと鞘から抜く動作と相手を斬る動作が一動作で済んでしまう。

 ぼくの間合いまであと、二歩半。

 相手の間合いは・・・

 伊玖麿の間合いを計ろうとしたその瞬間、彼の姿が大きく膨れ上がった。

 突進からの居合か!

 後から頭で理解しつつ、先に身体が動く。

 彼の左腰の鞘から刀身が煌めく。

 綺麗だ。その煌めきに吸い込まれそうになる。

 でも、その煌めきは死を運んでくる。

 その時には、すでにぼくの身体は伊玖麿に張り付く位まで踏み込んでいた。

 丁度ぼくの剣の位置が刀を抜き放とうとしてる彼の右腕の上になる。

 そのまま抜けば、自分から腕を切り落としてしまう位置だ。

 戸惑う伊玖麿の顔。瞬時に抜刀を止める。

 そして、ぼくの身体はコマのように回転しそのまま剣で横薙ぎにした。

 剣が伊玖麿の胴を払う。

 う、避けない!いや、手応えが無い。

 剣は伊玖麿をすり抜ける。

 剣が振り抜け、そのままの勢いで伊玖麿に背を向けてしまう。

 無防備なぼくの背に、嫌な感覚。

 背後の伊玖麿が抜きかけていた刀を改めて抜き放つイメージが駆け巡る。

 このまま回転しても間に合わない。

 瞬時に剣を引き寄せ、立てる。

 ぐんと回転速度が上がり、丁度ぼくの背を斬ろうと振り下ろされた伊玖麿の刀と剣が鍔元で噛み合った。

 闘技場に耳をつんざく激しい金属音が響く。

 がっちりと互いの剣と刀が鍔元で噛み合う。

 力が均衡し、鍔迫り合いになる。

 力は互角っぽいけど、背が低い分ぼくの方が少し不利かも・・・。

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