制言師は語らない
「カーン、何してるの。遠慮しないでやりなさい」

「そ、そんなこと言っても・・・」

「いいから、さっさとやりなさい」

「うう、わかったよう」

「真剣勝負の最中に何をごちゃごちゃと。拙者を侮辱する気か!」

「そんなんじゃいんだけど・・・ごめん」

 ぼくは、剣を僅かに捻った。

 刀が滑り、ぼくの剣の刃の無いブレードと少し鍵状になった鍔の間に咬み込むように嵌まる。

「ぬぬ、いかん、伊玖麿、離れろ!」

「師匠、何事ですか」

「ほんと、ごめんね」

 一応、謝ってから、思いきり剣を反対に捻り込んだ。

 先程とはうって変わって美しい音色が場内に木霊する。

 その美しい金属音と共に、伊玖麿の刀は根元から奇麗に折れた。

 彼の唖然とした顔が、みるみる紅潮した。

「き、貴様、か、刀を!」

 あ、やっぱり怒るよなぁ。

「許せん、武士の魂をなんとする」

「お、落ち着いてください。こういう技なんですってば・・・」

 ほんとは、相手の剣を折った後、切り返しで相手を斬る破斬咬殺法って技なんだけど。

 ぼくは切り返さず、そのまま剣を背中の剣止めに収めた。

「落ち着け、伊玖麿。武器破壊技なぞ実戦では当たり前じゃ。剣を折られた時点で我を忘れた貴様の負けじゃよ」

「そうよ、そうよ、カーンがその気なら斬られてたところよ。感謝しなさい」

 うう、フォウは一言多いよ。

「しかし、師匠」

「ここは引け、伊玖麿よ。己の未熟さを糧とするのだ」

「・・・はい、師匠」

 あまり納得していない顔で、ぼくを睨みつけ、伊玖麿は下がった。
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