制言師は語らない
 あの人は制言師に詳しいなぁ。余程、フォウのお婆さんからひどい目に遭ったに違いない。

「これを知ってるとなると、よく生きていたわね」

「なに、運はいい方でな」

 一体、あのナイフに何の意味があるというんだろ。

「じゃあ、その運もここまでね」

「どうかの。儂はまだまだ運は尽きぬ予定じゃがな」

 そう言いつつ、乱厳さんは杖を捨て、腰の太刀に手をかけた。そのまま腰を落とす。さっきの伊玖麿と同じ居合の構えだ。

 その構えは伊玖麿以上に隙が無い。しかも、本気だ。

 だ、大丈夫かなぁ、フォウ・・・

「さっきとおんなじ構えね。師弟で同じ技なんて進歩ないわね」

「実戦における技なんぞ一つあれば充分なんじゃよ」

 確かにそうだけど、そうでも無い。あれは多分はったりだ。乱厳さんは何か仕掛けてくるはずだ。

「フォウ、気をつけて」

「あたしを誰だと思ってるの。制言師、フォーフールズ・イクスォールよ」

 言い終わると同時に、フォウはナイフを持つ右手を振り上げた。

 だが、その動作に入ると同時に、乱厳さんが動いた。

「いざ参る、降神流抜刀術訃音律《ふおんりつ》!」

 名前言いながら技を出すなんて・・・いや、ある意味、制言師に対しては有効なのかも知れない。

 遠い間合いから放たれたその抜刀は、抜き放つと同時に周囲に静寂をもたらした。

 なんだ、観客の騒めきや周囲の音が聞こえなくなった。
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