制言師は語らない
「大丈夫かい、フォウ。立ってられる?」

「大丈夫じゃないわ。舞言なんて使ったから頭の中パンクしそう・・・」

「ちょっと、フォウ?」

 彼女の身体が正面から倒れてくるのを受け止める。

 ふんわりした香りが鼻腔をくすぐる。フォウの匂いだ。

「じゃあ、あとはよろしくね、カーン・・・」

「よろしくって、フォウ、フォウったら」

 既に彼女はぼくの腕の中ですやすやと寝息を立てていた。

 なんとも言えない嬉しい状態だけど、一つ困ったことがあった。

「ぬぬ、か、身体が・・・」

「師匠・・・おい、雷神流、師匠を元に戻せ」

 そう、乱厳さんはまだ動けずにいた。

「いやね、判ってるんだけどさ・・・フォウ、起きてよ、試合終わったんなら、乱厳さんを元に戻してあげないと・・・」

 だけど、制言師は何も語らず、幸せそうにぼくの腕の中で眠り続けたのだった。


               END
< 19 / 20 >

この作品をシェア

pagetop