制言師は語らない
「でももヘチマも無いの。さあ、面白くなってきたわ。じゃあ、これから集中したいから、出てってね。おやすみ、カーン、明日楽しみにしててね」

「ちょっとフォウ・・・」

「それとも何?このあたしの楽しみをあなたが奪おうって言うの?」

 どんっと右手でテーブルを叩き、フォウが身を乗り出す。

 同時にぼくは身をのけ反らす。でないと、物理的に彼女の顔と僕の顔は正面から・・・

「なによぉ」

「いえ、別に何も・・・」

「さあ、さっさと出てって。明日の試合に寝不足で臨む気なの!」

「わ、判ったよ。寝るから。じゃ、じゃあ、おやすみ」

「じゃあね、カーン」

 バタンと、ぼくの目の前で部屋のドアが閉じられた。

 こうして、ぼくは彼女の部屋から追い出された。

 うう、せっかく旅先の宿で、夜更けに彼女の部屋を訪ねるきっかけを作ったのに・・・

 こうなったら、明日活躍して、フォウの喜ぶ顔を見てやろうっと。

 そんな決心をして、隣の自室に戻り、一人ベッドに潜り込んだ。
< 6 / 20 >

この作品をシェア

pagetop