制言師は語らない
「西、降神流剣術榊原伊玖麿《いくま》」

 ・・・えっ。

 観客席からもざわめきが聞こえてくる。

 降神流だって!

 降神流といったらトルバキア大陸最強と噂される幻の古流剣術じゃないか。

 いまだかつて、表舞台に出たことの無い門外不出の流派のはずだ。

 表舞台に出ないだけで、戦場では数々の伝説を生んでると言われている。

 そんな流派がこんな大会に出てくるなんて・・・しかも、ぼくの対戦相手だなんて。

 闘技場の中に姿を現したのは、藍の着物に少し淡い袴姿の剣士だった。

 お、サムライスタイルってやつか。初めて見た。

 ちょんまげは結ってないのか、残念。

 短く刈り込んだ黒い髪に、整った顔立ち。

 ふうん、美剣士って感じだ。

 背はぼくよりこぶし一つは高い。

 切れ長の鋭い印象の目の黒い瞳は、まっすぐにぼくを見据えている。

 その立ち居振る舞いだけで、なかなか腕の立つのが判る。

 これは、本当に気合いを入れないといけない。

 何しろ、この大会は刃を殺した模擬剣ではなく真剣による試合なのだ。

 当然、怪我もするし、中には死者も出る剣呑な大会なのだ。

 この大会のルールは簡単。本人が負けを認めたか、気絶や死によって戦闘不能に陥ったら負けなのだ。

 まあ、一応、剣術大会なので、無手や術のみの参加は認められていない。

 まあ、武器持ってれば何してもいいって事なんだけどね。

 それにしても、嫌な目付きだ。

 何も、そんなに恨むような視線を送ってこなくてもいいのに。

 少し様子見て、手強かったら降参しようかなぁ。

 最低限の参加料は貰えるし・・・

 と、その時、更にアナウンスが続いた。

「なお、この試合は双方のパートナーのたっての希望により、ペアによるチームバトルとします」

 えっ・・・どういうこと?
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