制言師は語らない
「こういうことよ、カーン」
「こういうことよ、カーン」

「わっ」

 いきなり、僕の左にフォウが現れた。

「なによ、その、お化けでも見たような驚き方は」

「いや、だって、どうしてフォウがここに・・・」

「そりゃあ、もちろん、あんな対制言師用の書式をわざわざ使う物好きをこの目で見る為よ」

「見るだけなら観客席でいいじゃない。なにも、一緒に戦うなんて危ないことをしなくても」

「判ってないわね、カーン。こういうのは間近で見るからいいんじゃないの」

「かっかっかっ、そのお嬢さんは物事をよく判っておるのう」

 これもいつの間に現れたのか、対戦者の右にかくしゃくとしたお爺さんが立っていた。

 茶の作務衣に杖を突いている。

「し、師匠。これはいったいどういうことでござるか・・・」

 対戦者も慌ててる様子だ。どうやら、向こうもこっちと似たような事情なのだろう。心中を察するよ・・・。

「なに、バルザクスの孫が出るというのに、伊玖麿一人では心もとないでな」

「し、師匠は、わたしを信頼しておられないのですか」

「よいか伊玖麿よ、ライディ家の武者修行には代々制言師の支援が付く。お前はまだ、対剣術以外の術が未熟じゃからな」

 バルザクスって、あの人はぼくのお爺ちゃんを知ってるのか。

「降神流・・・バルザクスの爺様、もしかして、あなた、お祖母様の日記にあった榊原乱厳《らんげん》ね」

「いかにも。すると、お嬢ちゃんが妖艶なる制言師の後継者か」

 なんだ、その字《あざな》は。恥ずかしくないのかな。


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