SICK&TIRED


鍵をダイニングテーブルに置く音が室内に響いた

体をビクッとさせたアタシを見てまことが少し笑う

「んな、ビビんなよ」

アタシのかばんをとって、椅子に置くと「で……?」と切り出した



「お前がおれと別れたいのは、あの男のせい?」

それだけじゃないけど……

「アイツの事が好きなわけ?」

アタシは立ったまま黙りこくる

「ちゃんと納得いく理由を聞かせろ」

黒の革張りのソファーにどかっと座ってドスのきいたこえでアタシを問いただす



その近くに足をそろえて小さくたたずむアタシ



にぎりしめた手のひらはもういつからかずっと爪が食い込んでいて、しびれているかのように冷たく感覚をなくしている





「あの人…は、アタシを殴らないし…

優しくしてくれるから」



「だから、好きなわけ?」


アタシはうなずいた

まことの目が鋭く細められてアタシを見据える



「だから、アタシと……


別れてください」



まことがえらそうにもたれかけさせていた上半身を起こすと、アタシの顔を覗き込んだ

「さき」

そう呼ぶ声にはいつもとは違う空気が混ざっていて、思わず彼の顔つきをうかがう




「お前を傷つける方法なんていくらでもある

他の男のことを好きだっていうなら…

なおさら」




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