0センチの恋〜みんなの王子様〜【短編】
「あー!三年生卒業しちゃったね!」
親友のエミリがハンカチで涙を拭きながらそう呟いた。
ガヤガヤと賑わう、廊下。
教室へと足を進める。
「なんで泣けるの」と笑いながらエミリの肩を小突いた。
あたしも、泣きそうになったし人のこと言えないけどね。
「だって颯太先輩いなくなったら波中輝きがなくなるよ?」
「颯太兄か」
「なんで泣けないのよ〜。幼なじみでしょ」
幼なじみか…。
そうか……。
そうだ、幼なじみなんだ。
あたし達は。
恋に一生発展することのない幼なじみ。
「だね。あたしも泣けばよかった」
「今更遅いっつの!」
本当だよ。
今更そんなこと気付いちゃったよ。
トボトボとエミリの後に続いて歩く。
そしたら、どこからともなく
黄色い声と、泣き声、話し声が聞こえた。
「蜜柑っ!」
大好きな声。
大好きな温もり。
あたしの腕を掴んでいるのは。
「颯太…兄…」
息を切らして、ちょっと怒った顔をしてあたしを見つめている。