花には水を
暗く寒い夜道。
私は怖くて、聖夜兄の服にしがみつくだけで精一杯だった。
すぐ側で、聖夜兄の微かな声が聞こえた。
何かを漠然とした様子で見つめていた。
そんな聖夜兄の瞳をじっと見た私は、すっと視線を同じ方向へと向けた。
父さんの尾行。
それは、失敗だったのか成功だったのか…よく分らない。
だけど感じ取れたのはどんな形で表せばいいのか分らない父さんの寂しさだった。
母さんの墓の前で何も言わず頬に涙を伝わせている。
そんな父さんを見ていた私の手を聖夜兄は強く握って背を向けた。
「…帰るぞ、灯」
小さな声で、震える声で聖夜兄は言うともと来た道を私を連れて帰っていった。
歩くスピードの違う足で、逃げるようにその場を離れる。