花には水を
「…灯」
小さく私の名前を呼んで聖夜兄はハッとしたように私から目をそらすと、先生へ苦笑いを浮かべた。
「…ハハ、まさか自分の父親と同じ道に進もうとしているとは…」
「はい…。ですが、私は妹さんはしっかりと悩んで見つけた夢なので応援をしたいと思っています」
先生の言葉に、私は少し目頭が熱くなった。
ただ、高校を出したい訳じゃないんだ。
しっかりと私と向き合ってくれてたんだ。
今更だけど、大人を信用することを忘れていた私は信用できる大人がいる…という事を知った気がした。
「…はい、俺もそれで良いと思います。どうか、よろしくお願いします」
聖夜兄はそういうと、深々と先生に頭を下げた。
歳が少し離れているだけなのに、その少しが大きい。
聖夜兄は、きちんとした大人で。
私はその大人に守られている子供で。
聖夜兄がいるから、今私はこの瞬間息をして空気に触れて。
明日に向かおうとひたむきに走っているのだと、改めて感じた。