花には水を
叔父さんの歌声は優しいのに、怖い。
どうしてだろう。
俺は、そのとき初めて叔父さんを見る事ができなくなってしまった。
どんな表情なのか。
どんな、思いなのか。
俺には全然分からなかったから。
でも、ずっと聴いていたその声は俺の記憶の中を探っていって、気付けばあの頃の思い出が頭の中に映っていた。
極端に整った綺麗な顔に、何もかも見通すような深い瞳。
普段、笑わない叔父さんの顔が優しくほぐれる時。
奥さんである美香さんが幸せそうに笑って手を伸ばして子供を抱きとめている姿をガーデンに置いてある白い椅子に座って眺めている。
これは、いつも俺が見ていた現にあったもので。
夢なんかじゃないはずなのに…。
あまりにもその光景が、眩しすぎて時折現実か夢かわからなくなってしまう。