夜中散歩
今日は久しぶりに店に出勤する予定だった。
同伴の予定もあるし、給料減ったらいけないし。
同伴をするとその分料金がかかる。
うちの店では、同伴をすればするほどお給料が弾む。
ここ3日ほどは店には出ていないため、お店の人やお客さんからの出勤催促メールが何通も届いていた。
分かってるよ、と思いつつ朝からメールを打つ。
駅へ着くまでの間に営業電話もかけた。
「今日、お店に出るんでお時間があれば来てください」
数え切れないほどの客のメモリー。携帯は普段用と仕事用、二つ持つようになっていた。
じゃなきゃ、混同してしまう。
だから今日は荷物が少し多い。

徒歩で駅に向かうと、いつものようにロッカールームに荷物を入れた。
紙袋の中にはドレスやら、化粧品やらが入っている。
これがあるから、私は藤本満月から真希に変わることが出来る。
ロッカールームに荷物を入れ終わって、ふいに周りを見ると見覚えがあるような人が通った。
少し背の低い、茶色いバッグを持った女の人。
真希、あの人だ。
私が目線を奪われている間、真希さんは一度も私には気付いた様子がなかった。

どうして東京に居るの・・・
人ごみの中、私は彼女に近づいていった。
どういう理由もなく、ただ、導かれるままに。

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