夜中散歩
その声が同時に携帯からも聞こえる。
「え?」
それが相手にも伝わったのか周囲を見渡す。
子供の手をしっかりと握りながら。
その姿があまりにも面白くて笑った。
「子供が居るんですか?」
「意味分かんないって、何?」
「居るなら居るって言ってくれればいいのに」
「待って、どこに居るの?どこから見てるの?」
「どこって・・・目の前」
そう言った私と、携帯を持った真希さんの視線がぶつかった。
遠くから見ても分かる。驚いた表情。
そこへ、先に内回りの電車がやって来た。

「でも、私は元気な真希さんの姿を見られて良かったです、東京に住んでるなら暇なとき電話でも下さい」
一方的に電話を切る。
電車へ乗り込んで窓の外を見れば、ただただ携帯を持って呆然とする姿。
悪戯電話も度が過ぎていると思いつつ、私がしたことは間違っていないと思った。
お兄ちゃんという人が居ながらお父さんとも繋がっていたあの人を。
許せるか、許せないかって言ったら勿論許せないけど。
大嫌いだけど、あんな人。

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