夜中散歩
そしてもう片方の手も掴まれる。
体を倒されて、パーカーのポケットから携帯が落ちた。
手首を掴まれて、一切の身動きが取れない状態。
拓に会いたいという気持ちが、一瞬にして恐怖に変わる。
「・・・やだ」
両腕を頭の上で押さえつけられ、片方の手が顔に触れる。
何やってるの?何しようとしてるの?

兄の瞳が閉じて、顔の距離が近くなる。
嫌だ。そう思って正面を向いていた顔を横に向けると、兄の口にぶつかった。
兄の口に目をやると、口の端から血が少しずつにじみ出てくる。
「やだよ・・・やめて・・・」
声を出すけれどすぐに兄の手で口を塞がれた。
「黙ってろよ・・・」
聞いたこともない低い声。
自分の頭の中で恐怖を感じる。

兄の冷たい手が服の中に入ってくるのを感じた。
「やめてよ・・・いやだっ・・・」
そんな声も、広い家の中の部屋で虚しく響くだけ。
拓、拓なら助けてくれる。
さっき倒されたときに携帯が落ちたのを思い出す。
周りを見渡すと、ベッドの下に携帯はあった。
手を伸ばしたいけれど掴まれていて伸ばせない。
助けを呼ばないと、私は・・・
抵抗をすれば殺されるかもしれない。
・・・こんな奴に殺されてたまるか。
殺されるくらいなら殺してやる。

小さい頭の中で助けを呼ぶ方法を考える。
その間にも、兄は私の体の中で手を動かす。

一か八か。
満月は目を閉じて、深く呼吸をした。

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