夜中散歩
近くにあるハンカチを持ち、兄の部屋へと入る。
立っているだけで意識が持っていかれそうな感覚。

『自殺に見せかけた他殺』
そんなもの本当に出来るのだろうか?
使われたものは同じものがいいだろう。

周りを見渡して、マフラーと似たものを探す。
透明の衣装ケースに、兄が使っていたであろうマフラーがしまってあった。
ハンカチを通し、マフラーを掴もうとすると机の上にある一冊のノートが目に入った。
何だろう。ノートをパラパラと捲る。
何ページが捲ったところで、私の手が止まった。
これだ・・・、これで自殺理由が見つかる。
マフラーを手に取り、自分の部屋へと走った。

「これ」
拓にマフラーを差し出すと、俯いていた顔を上げた。
「これをどうするの?」
「自殺に見せかける」
「・・・そんなことできるの?」
「やんなくちゃだめでしょ!」
急に上げた大声に驚く拓。
自分でも驚いた。
でも・・・そうしなくちゃいけない。
「22時になったら親が帰ってくるの、早くしないと」
「・・・分かった」

もう一度、頭の中を整理する。
どんな理由で自殺に見せるか、どんな風に自殺させるか。

時間だけが過ぎていき、より一層頭を混乱させる。
衝動的という理由は許されない。理由なんて。
小さい頭の中で、どんな風に見せかけるか。
それを考えることは無理に等しい。
考えなきゃ、考えて考えて考え抜け。

「首吊り自殺」
静かな部屋の中で、拓の声が響いた。
首吊り自殺。
「・・・え?」
「首吊りだよ。難しいだろうけど、可能性はある」
闇の中に光が差すような感覚。
でもそれは、見せかけの光に過ぎない。
それから拓は、怖いくらいに落ち着いて話を始めた。
「・・・問題は自殺理由」
「それならあるよ、これ」
兄の部屋に入り先ほど見たノートを持ってくる。
「これがどうしたの?」
「お兄ちゃんが書いてた日記。使えるかわかんないけど・・・」

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