夜中散歩
「・・・これは取っておこう、後々使えるかもしれないから」

満月の背中をさすると写真を渡す。
写真が見えぬように渡されたそれを、近くにあった雑誌の間に挟んだ。

気がつけば、時刻は20時42分を示していた。
徐々に焦り始める満月に拓が言う。
「じゃあ始めよっか」
他殺を自殺に見せかける、『犯罪』を。

拓の口から淡々と語られるその方法は、至ってシンプルだった。

兄の日記からほぼ自殺理由は記されているし、成功すれば自殺として処理される。
しかしその確立は低く、リスクが大きい。
なぜならば、絞殺と首を吊る縊死自殺では方向や形が違うから、などが挙げられた。

他にもっと安全な方法はないのか聞いてみたけれど、拓はその方法を推した。
「真実を隠すことに安心なんてない」

使われるのは兄のマフラー。
それ以上の事は言わなかった。実行するのは拓一人。
兄の部屋に入り、ドアの鍵は閉められた。
ドアを隔てて、部屋からは物音がした。
拓がどうなっているか。それは拓にしか分からない。


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