夜中散歩
そして、21時01分。
それまで何も言葉を発しなかった拓が口を開いた。

「終わったよ」
ドアの前に座り込んでいた私が立ち上がる。
何を言っていいのか分からない私は、ただ一言ありがとう、と言った。
言った後にどうして『ありがとう』なんだと思う。
だけど、拓が『それ』を実行することで、自分のしたことが少しは薄れていくんだと考えた。
ドアが開くと、私の部屋に入り手を握った。

「約束して欲しい事がある」
「約束?」
うん、と頷いて優しく笑う。

「これは燃やして欲しい」
そう言って渡されたのは、マフラーだった。
凶器として使われたマフラー。
それでも、私があげたマフラーだ。
「誰にも見つからないように。それまでビニールかなんかに包んでおいて」

「俺が部屋の鍵を閉めるから、満月もついてきてくれる?」
「どういうこと・・・?」
「普通は自殺をするとき、誰にも見つからないように部屋の鍵は閉めるもんじゃないか?」
「でも・・・」
「大丈夫だよ、心配すんなって」
頭を撫でられる。だけど不安な思いは募った。

これからの私と拓は、どう生きればいいのだろう。
明日から、何食わぬ顔で生きていく。
それがどんなに苦しくて、どんなに辛いか。
考えることなんて、今の私には到底出来なくて。

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