夜中散歩
兄の部屋に入った時も、満月の目は拓の手で覆われていた。
二階建ての住宅から拓が飛び降りる。
幸い、兄の部屋の窓の下には物置があった。
拓が腕を開いて待つそこに飛び降りた私は、拓に支えられながら窓を閉める。
雨が降っているのを知り、玄関から傘を持ってくる。

「あれ・・・?」
玄関に入ると、床が濡れているのに気がついた。
拓が来たときには雨は降っていなかった。
電気をつけて見てみると、階段まで続いている。
どうしてだろう。誰か来たんだろうか。

とりあえず家を出て、パーカーをかぶっている拓に傘を渡した。

「・・・また、会えるよね?」
「会うことは難しくなるだろうけど、絶対会えるよ」
その言葉が例え嘘でも。救いの言葉に聞こえた。
本当は拓の方が怖いはずなのに。
真っ黒な世界に、ひとつだけの光。
「私、頑張るね」
ガッツポーズをしておどけてみせる。
「おう」
「じゃあ、またね」
切ない気持ちを押し殺して手を振る。
笑って頷く拓。
離れたくない。離れたら現実に戻される。
辛い。苦しい。誰かと一緒に居たい。
冷たい雨とともに、涙を流した。

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