夜中散歩
鏡を見ると、自分の顔が映る。
不安と恐怖でいっぱいいっぱい。
誰が見つけるんだろう。
どうなんるんだろう。家族は。
父や母はどう思うんだろう。どう感じるんだろう。

「おはよう、お母さん」
「おはよう」
テレビを観ていた母。
父の姿はない。会社に行ったんだろう。
テーブルに用意された朝ごはんを口にする。

「今日仕事は?」
「休み」
そう考えれば、兄を見つけるのは母ではないか。
徐々に近づく『その時』に不安を覚える。

普通を装いながら、頭の中は混乱していた。
いつも通りの朝なんて今日だけかもしれない。
母がふいに、兄の部屋に入ろうとする。
だけど部屋の鍵は閉まっている。
ドアノブに手をかけて母は言うだろう。
「優哉、ここを開けなさい」
だけど兄は返事をしない。
寝てるんだろうか。

それでも母は何度も問いかける。
「何やってるの?起きてるの?」
兄が返事をすることはない。

だって、死んでいるから。

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