夜中散歩
きっと、現実はすぐ目の前にやってくる。
どんな事よりも悲しい形で。
そして全てを壊していく。
私の幸せを踏みにじって、家族の幸せを跡形もなく消し去って。
学校に入っても、いつも通りに笑えない。
『いつ見つかるんだろう』
そんな思いが黒い染みのように住み着いて離れない。

時間は思ったよりも早く訪れた。

授業が始まってすぐ、他の学年の教師が教室へ入ってきた。
そして先生に何かを伝える。
教室が少しざわめき始めその教師と私の目が合った。

「澤井さん、ちょっと」

席から立ち上がり、廊下へ行く。
「鞄持ってきなさい」
その一言だけを言われて。

車に乗っているときも、先生は何度も何度も満月に話しかけた。
大丈夫だとか。心配するなだとか。安心しろだとか。
そんな言葉、頭に入らなかった。
それは全部、先生が先生自身に投げかけているように聞こえて。
どう考えたって動揺しているのはそっちなのに。

『連絡が来たよ、先生の車で家に向かってる』
兄が死んだというのに、なんて自分は落ち着いているんだろう。
『分かった、出来るだけ普通にして頑張って』
何を頑張ればいいんだろう。
何を根拠にそんなこと言うの?
分かんないよ。どうすればいいの?
窓に映る自分の顔を見て思う。笑えばいい?
それとも、『兄が死んで喪失感に襲われる妹』を作る?

涙なんか流れるの?
殺したのは私のくせに。

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