夜中散歩
私の真実と、父の真実。
どちらが重くて、どちらが残酷なのか。

「これ見ても、何とも思わない?」

満月の手には、一枚の写真。
これが現実。父の真実。
真実を現す、たったひとつのもの。
目を見開いて、何かを言いたげな父。

「馬鹿じゃん、こんなことしてさ」
「それは・・・違う、お父さんじゃない」
「じゃあこれ誰よ?これ、見たことあるでしょ?」

声が荒くなる。
写真に指をさす。

「真希さんでしょ、お兄ちゃんの彼女」

もう何を言われても、何を隠されても、
そんな事どうだっていい。
この手にある、見たものだけが本当のこと。

隠すことなんて、出来る訳がない。

「違う、違う」そう否定し続ける父を、少しずつ追い詰める。
酒を飲んでいるなら、そのまま落ちてしまえばいい。
これで死なないのなら、また他の方法を考えればいい。
どちらにせよ、この人は死ななくちゃいけない。

一瞬の隙を見て、父が手を伸ばした。
その手を払って父の体を押す私。

父の足が居場所を失い、落ちていく体。

一瞬の出来事なのに、酷くスローに見えるその光景を見て、満月は笑った。



< 64 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop