夜中散歩
その瞬間、階段の下から大きな音がした。
上から様子を見ても、起き上がる様子はない。
「お父さん?」
声をかけてみても、返事はない。
死んだならそれはそれでいいんだけど。
大きな耳鳴りがして、階段を数段降りたところで立ち止まり、その足を自分の部屋へと向かせ部屋に入ると、鍵を閉めた。

―――終わった。殺した。
たぶんきっと、自分がやらなくちゃいけない事が。

それより早く拓のところへ。

部屋の片隅にある箱に入った新品の靴を出して履いた。
戻れない事をしたんだ。もう戻る事は出来ない。
罪を犯したんだ、自分は。許される事なんて、きっとない。

窓を開けて、ゆっくり下を覗く。
隣の家とのわずかな隙間と、殺風景が広がる。
口に溜まる生唾を飲み込み、目を瞑る。

窓から身を乗り出し、深呼吸。

これで死ねたらいいのにね。
そんな考えが過ぎった。
二階から飛び降りたくらいじゃ骨折程度か。
もういっそ、死んでしまえたらいいのに。

片方の足を乗せ、もう片方の足も乗せる。

飛べばこの部屋を出られる。

体に力を入れ、満月は二階から飛び降りた―――。


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