夜中散歩
あの事件が起きて、母親は家族みんなで住んだ家を手放した。
小さな団地に住み始めた私と母親の暮らしは、とてもではないけれど人に言えるようなものではなく。
家には男を連れ込み、食事もろくに与えてもらえない時期が続いたとき。

私の知らない間にその男と再婚までしていたという。
担任の薦めで心療内科に行った私に言われた言葉。
「あなたの家庭は機能不全家族かもしれない」
聞きなれない言葉を聞き、詳しく教えてもらったところ、私の家庭に当てはまるようなことばかりだった。

「このままじゃ、あなたがおかしくなる」
あの時言われた言葉を、私は忘れない。

「真希、そろそろ誕生日だっけ」
彼が言う。
「あー、そうかもしれない」
笑って見せると、彼は眉を下げて笑った。
「そうかもしれないって・・・自分の誕生日も忘れたの?」
思い出したくない。
あれからいくつか誕生日を迎えてきたけれど、ろくな誕生日を過ごした思い出がないから・・・

< 75 / 126 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop