夜中散歩
藤本満月。
母が再婚してからの私の苗字。
澤井満月はもうどこにも居ない。
藤本満月も、存在するのは学校でだけ。

私は真希。満月なんてどこにも居ない。

真希という名前は、私が働く場所で使っている名前。
高校入学と同時にアルバイトを始めて辞めを繰り返した私が、やっと落ち着いた場所。
決して人に誇れるような職業ではないけれど・・・

今、隣に居るのもその職場で知り合った人。
確か大学に通っているとかなんとか・・・

「花出すから、正式な誕生日教えてよ」
「正式な誕生日って」
「ちゃんとした誕生日!」
「12月24日」
「クリスマスイブなんだ」
「他のお客さんに負けないようなプレゼント、期待してます」
営業用のスマイルを見せる。
そんな私とは対照的に彼は苦笑いをする。

たくさん居るお客さんの中でも、彼だけは本当のことを知っている人だった。
私がどんな家庭に育ったかってことも、本当は高校生だってことも。
きっかけは、制服姿の私を彼の通勤中にたまたま見られたってことなんだけど。
「明日から学校だろ?もう帰るか」
「うん」
12月8日、日曜日。
明日からまた新しい一週間が始まる。
16歳。過去を捨てることは出来ないけれど、私は今幸せです。

拓、あなたは元気ですか?



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