夜中散歩
ギリギリ電車に間に合うと、空いていた席に座る。
電車内はとても寒く、この時間帯の割には人ごみは少なかった。
私の前に立つ、お年寄り。
気がついて席を立とうとすると、隣に座っていた人が先に立った。
私と同じぐらいの男の人。
「どうぞ」と席を譲ると、その人は少し離れた場所で小説を読み始める。
「今時珍しい人・・・」
呟いて横顔を見ていると、どこかで会ったことがあるような懐かしさを感じた。
そう思うと、携帯のディスプレイが光る。

【寝坊しなかった?大丈夫?】
彼からのメールだ、【ギリギリ(汗)】と返信を打つ。
そしてもう一度顔を上げてみると、さっきの男性はもう電車内に居なかった。
探してみても居ない。きっと降りてしまったんだろう。

ちょっと心配性な私の恋人。
相手は私の本当の名前も知らない。
愛されたい愛されたいと思えば思うほど、愛せないって思ってしまう自分が居る。
私が幸せになってもいいのか。
きっと、生きてりゃ誰にでも幸せになっていい権利はある。
でも、私には忘れられない過去がある。
年を重ねれば重ねるほど、どう生きていけばいいのか分からない未来への不安が募る。
それでも、生きていかなくてはいけない。


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