夜中散歩
12月15日。その日、私はある駅に居た。
時刻は10時、久々にこんな時間に外へ出る。
眠気を堪えながら待ち合わせ場所へと向かう。
日曜日ということもあってか、家族連れやカップルが多い。
ため息を一つついたところで声をかけられた。

「真ー希ちゃん」
顔を上げれば少し背の高い小雪さんの姿。
手の甲まで隠れてしまうほどの長袖を着ている。
「こんにちは」
駅の近くのパーキングに駐車されている小雪さんの車。
赤のシルビア。
こんな派手な車に乗る専門学生なんて居るのか、と疑問に思いつつ車に乗り込んだ。

ついた場所は映画館。
この前、小雪さんと約束した映画を見る予定だ。
「小雪さん、何食べます?」
「ポップコーンLサイズ!二人で食べよう」
年上だっていうのに、なんて子供っぽいんだろう。
私が冷めてるだけ?
ポップコーンを頼んで、上映時間になるまで近くで待つことにした。
「私服姿の小雪さん初めて見ました」
「あぁ、これ、昨日買ったの」
長袖の裾をめくったところで、何かが見えた。
「あ・・・ごめん」
慌てて裾を引っ張りソレを隠す。
手首に、数えられないほどの傷があった。
左手首。赤というか、ピンクというか表せない色の傷跡。
妙な沈黙が生まれ、話し始めたのは小雪さんだった。

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