夜中散歩
「リストカットって知ってる?」
・・・やっぱり。
頷いて小雪さんを見ると、周りを見渡して裾を捲った。
いきなりのことに驚く私を見て小雪さんは笑った。
「こんなことしても死ねないのにね」
自分自身を嘲笑うかのように言うと、肘の辺りまで上げられる服。
少し目を細めてその傷跡を見つめる。

そして気付く。
多分、この人もこっち側の人間なのかもしれない、と。

1985年、12月24日生まれ。
クリスマスイブに生まれるなど、大層迷惑だったに違いない。
共働きをする両親、年の離れた兄に囲まれて育った私。
それなりの反抗期。夜に遊びまわったりもした。

14歳の誕生日の寸前。
私は父と兄を殺した。
兄を殺したのは、私じゃない。
それを見ていたのが私。
父を殺したのは私。

なのになんでこんなに平凡に暮らしているんだろう。
明日、もしかしたら捕まるかもしれない私が、どうして映画を見ようとなんてしているんだろう。
捕まったらどうなるの?前科持ちなんかになったら結婚できないじゃん。
あ、もう既に前科持ちか。

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