メランボス
(二)
こいぬ、メランボスの前に横たわるのは主たるアクタイオンの姿でした。
「くぅん」
森の中、微かに濡れた鼻で主の頬をつつき舐めるメラでしたが――いつものように主が撫でてくれることはありません。
鹿の喉を一噛みすれば、いつも主は喜んでくれました。
なのに今回は違った。
噛んだ瞬間に鹿が見知る大好きな人の姿になったのだ。
あの瞬間をどう例えましょうか。
目の前が真っ暗とも言える出来事なのに、メラの目は見開かれたままで、思考が停止したのに、鼻いっぱいに広がる主の匂いがメラを気絶させてはくれませんでした。