二重世界
「さっきから藤堂くんおかしいよ!私と幼馴染みのコを重ねないで!」


こんな事言いたくない。気付いてくれる事は嬉しい事なのに。
私は自分がいたたまれなくなり、亮ちゃんを置いて走り出した。


「あ、おい、片瀬!……俺が変なのか?あいつが妙にヒロミに見えちまう。くそっ!何が何だかわからねえ……!」




私はこのとき、完全に動揺していた。だから自分の中の、危険察知の警報器が鳴り響いていることに気付かなかったのだ。


「ふう、かなり進んじゃった。他に言い方なかったかなあ。咄嗟にキツイ事言っちゃった……。ていうか、私、お化け屋敷で1人きりに……!?」


私は動くのを止め、亮ちゃんの声が聞こえないか、近付いてくる足音がないか、耳を澄ました。


静寂。


しかしこの静寂すらも、今の私にとっては恐怖の対象になる。


「何も聞こえない。……でもちょっとおかしくない?この中には結構な人数がいるはずなのに、人の気配が全くないわ」
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