二重世界
‘くっ、ダメだ!考えてはダメだ!別の事を考えねば!'


男の心の声が聞こえる。さっきまでとは全く逆で、私はますます冷静に、男はどんどん我を忘れ、混乱している。


「心の中で、声にしなくてもね、もう無駄よ。‘死のルール'という言葉を投げ掛けた時点であなたはイメージしてしまうわ。その‘描'を!それは絶対に抗えない!」


‘焦るな!絶対に思い描くな!ルールを……!私は'




「息子に会ってはいけない」




その瞬間私には見えてしまった。この男が頭の中に描いたイメージを。
笑顔で自分の子供を抱く‘描'を。

悪党のくせに、私と同じ苦しみを抱いていたなんて……。
でもそれが‘真実の束縛'。



‘蘇り'と引き換えに奪われた、魂のかけら。



「がっ……、貴……司」



瞬間、その男をドス黒い煙のような物が覆った。
そして私には、男の背後から鎌を持って現れる死神の姿がはっきりと見えた。
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