二重世界
それから男は、一気に黒い塊の中に飲まれて行った。


凄まじく、おぞましい……。


私は、今の光景を自分に置き換え、身の毛もよだつ思いに駆られる。



「私も、ああなっちゃうの……?」



そしてしばらくすると、パリーンという、ガラスが割れるような音がした。

自分の視界に見えていた景色がひび割れ、新たな視界……現実の世界が目に映ったのだ。

すると、ざわざわと沢山の人の声が聞こえ始めた。座り込む私の隣をカップルが通りすぎる。


「クスッ、見た、今のコ?はぐれて腰抜かしてたわよ」


「おい、聞こえるって……」


……戻った?


「おい、片瀬!お前、怖がりのくせに先に行くんじゃねえよ!」


亮ちゃん。
ちゃんと生きてる……。


「良かった……」


「お前よお、泣く程怖かったのかよ」


違うよ。
あなたの顔を見て安心したの。
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